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【07】双子の手記(在庫なし)



サイズ  :A5
ページ数 :196P
価格   :1,000円
発行日  :2017年9月

過去に『紅の手記』として出した零パロソマ主本を完結させたものです。 何年も経っているということもあり、この度は『紅の手記』を前編として新たにつけ加えた後編を合わせた前後編版となっております。

サンプル

 村の深淵に渦巻く×を抑えるためには双子巫子である片方を×し×へ、と。×より戻る蝶は災厄を退け村の守り神となる。
 昔から行われていた儀式は誰も疑問に思わず、「これは大事なことなのだ」「村を存続するため」「儀式に選ばれるのは凄いこと」などと周りにいる大人たちは口を揃えて言っていた。
 白羽の矢が当たったのはとある双子。
 しかしながら行われたのはたった一人だけ―。
 もう一人は村が終わる最期の時まで現れることなく。残された双子の片割れは見捨てられたのだと絶望し、蝶になれることもできずに深い×へと堕ちていった。
 代償になることもできず、×へ堕ちていく片割れの心は軋みをあげながら壊れていった。
 こうして村は大償いを払うことになり、二度と朝の明けぬ世界へと変わっていった。




   一ノ刻
「…ユヅキ」
 川辺にある大きめの石に座り、こちらに背を向けていた彼の名前を呼べば何ともなしにこちらを振り返る。
「どした?」
「いや、なんでもねえ」
 こちらを振り向いたときに誰かとユヅキが重なって見えたのは気のせいだろう。車に揺られて長時間も同じ態勢でいたからこそ知らぬうちに疲れがたまっていたのかもしれない。ソーマは眉間の皺を伸ばし、緊張状態を解す。
 自分達がいる周辺は避暑地とも呼ばれ、幼い頃は夏休みにも入ると恒例行事のように必ず家族と一緒にでかけていた。まさか高校生にもなってと自分は思ってしまうが、両親が楽しげにしているのならばこれはこれで良いのかもしれない。
 けれども、今回は少し違う意味合いも含まれている。
 今ここにいる場所はひと夏を越えるとダムの底へと沈むことになっていた。
 小さい頃は夏休みになると必ずこの森に来ては遊んでいたが、とある一件以降からは近づこうともしていない。
 苦い思い出でもあったが、ユヅキのお願いということもあり高校生になった二人はもう一度だけこの沢へ訪れていた。
「ソーマ?」
 心配したユヅキが腰をあげ、びっこを引きながら近づいてくる。昔に起きてしまった事故が原因で、彼は二度と走ることができない足になってしまった。そうなった要因は自分にもあり、彼の歩くさまを見せられると自分の罪を見せつけられるようで、心がズクリと痛む。
 もしもあのとき、ユヅキを置いていかなければあんな事故は起きることはなかったのだろうか―。
 小学生だった頃の自分達は好奇心が向くままに森の中で遊んでいた。
 どうして遅くなってしまったのかはこの際どうでも良い。時間も忘れて遊び、気づいたころには夕暮れどきになっていた。森の日暮れは速い。暮れたかと思えばすぐに森は姿を変えて見たこともない顔を表す。
 親に怒られることを恐れたソーマはユヅキの手を掴み、山道を駆け下りていく。それでも間に合わないと悟り、先に降りてから親に伝えれば大丈夫だろうとユヅキの手を離して一気に駆ける。
 もともと体力のないユヅキはソーマの名を呼びながら置いていかれないよう必至についてくる。
 待って、置いていかないで―。
 ついて来ているユヅキの様子を伺い、もう少しだけ足を速めようとソーマが前を向いたときだった。
 短い悲鳴にソーマは前につんのめりながら立ち止まる。振り返ると後ろにいるはずのユヅキがどこにもいない。彼の名前を呼びながら辺りを見回したとき、道の脇の小さな崖である一か所だけ不自然に草が潰れていた。
 嫌な未来、嫌な予想。痛む心臓を抑えるために強く握りしめ、ゆっくりと崖下をのぞき込む。そこにはユヅキがうつ伏せに倒れていた。
 あり得ない方向へ曲がっている彼の右足―。
 いっそのこと「お前のせいだ」と罵ってくれたほうが楽だった。
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